イギリスの「魔女術禁止法」って実際にあった法律は、魔女術の実在を語る

少なくとも英国では、ルネッサンス期には魔女、あるいは魔術が社会問題になっていたといえそうです。社会問題になったということは、対象である魔術が一般的な概念として社会で共有されていたといえます。

一般的概念として通用している事実というのは、古い時代だけの話ではなく、現代においても同様の現象を挙げられます。いわゆる典型的アメリカ人などが類似したものでしょう。典型的というのはアメリカ人という言葉で想起する人柄・人物をさしますが、そのものである人は恐らく見当たらないはずです。

もっとも古い魔術に関する法律は1542年のヘンリー八世によるものですが、この法律で魔術を定義している魔術は、儀式や形式によらず、目的によって定義しているところが面白い。

違法に金銭や宝物を見つけ出そうとすること、無意味に消費すること、他人の身体を損なったり殺害すること、法外な恋愛のためや何らかの違法な行為のために、あるいはキリストへの侮辱のため、そして資金を不正に得るために十字架を冒涜したり誰かを呼び出すこと。

現代では意味が分からないようなことも含まれるが、具体的な行為を中心に禁止しています。ざっくり言ってしまえば、他人の安全、利益を侵害すること、あるいは宗教的冒涜といった反社会的な目的をもって、何かの行為をすることですね。

さらにエリザベス一世の時代(1563年)にも魔術に関する禁止令が出されました。この法律では魔術を行う者に対して幾分の情状が酌量されているとされます。他者に対して危害を加えたときとそうでないときとで、刑罰に軽重が設定されています。

残存する記録によれば殺人に関して、1,158人の被害者の内、20.6%は魔術によって殺害されたと考えられています。157人が魔術による殺人で告訴されており、約半数は無罪とされていますが、その中の男性はたった9人に過ぎません。

スコットランドでも1563年に魔女法が発布されました。魔術の実践や魔女との相談は斬首刑に処せられます。この魔女法は1735年に置き代えられるまで有効でした。

続いて1604年のジェームス治世時代にエリザベス法が改定発布されます。この法律によれば、邪悪な霊を呼び出したり、先祖霊と交流すると正式な手続きを経なくても死刑に処せられます。

魔術と悪魔礼拝とが混合してきたように思えますね。エリザベス法やジェームス法によって魔術は重罪になりました。結果として、魔術は教会の管理下ではなく、法律によって裁かれたのです。

1649年にはスコットランドで教会が魔女法を拡大するように要求します。他の偽りの神々を礼拝し、両親に暴力を振るうのは冒涜の罪で斬首です。こちらでは明確に他宗教に対して一方的な立場をとっているのがわかると思います。悪魔とその仲間に相談するは死罪とされました。

魔女術禁止法は一旦1735年にまとめられ、伝統的な魔術に対して罰則を定めています。多くの影響下で不可能だと考えられる犯罪を魔術の虚偽として処罰の対象にしました。神霊の力を求めた者、未来を告げ、呪文を唱える、盗まれたモノを見つけるなどが具体的な実践です。

全英に対して施行され、ジェームス法とスコットランド法にとって代わり、1951年の詐欺的霊媒法が置き換えるまで有効でした。そして最終的には、これら一連の魔女術禁止法は2008年の廃止まで存在し続けました。

ウイッカはまず他者に害を及ぼすのを禁じています。それはこのような歴史を踏まえて、魔女術から違法性を除くためだったといえるでしょう。そしてキリスト教社会からの一方的な主張によって成立してきたという事情も現代のウィッカに無縁ではありません。