【イタリアが主役】ルネッサンスに賑わう魔術世界を形作っていた人たち

現存する魔術書、手に入れることができる魔術書は16世紀以降のものがほとんどのように思えます。それ以前には魔術が存在しなかったのでしょうか。そうではなく、それ以前から必要な知識そのものは存在していました。

ルネッサンス期の知識の源泉は古代ギリシアとローマにあります。この時期にアラビア経由で古典が流入したという枠組みです。文化の面では、ギリシア語の復興とオペラの成立がルネッサンスの花として挙げられるでしょう。

魔術面では2つの大きな潮流を考えなければなりません。一つにはネオプラトニズムです。これは3世紀のプロティノスが創始者とされていますが、プラトン哲学を出発点にして、ギリシア哲学を折衷的に発展させたものです。

神秘的宗教思想の影響を受けたことも大切な点です。神秘思想とは、観念上の存在が実在すると考えることですし、観念を実在に優先させて理解する傾向です。天空に国があると考える観念が優先して、必ずどこかに実在すると考えるなら、神秘主義的傾向を帯びる結果になります。

共通無意識なる観念が、宇宙のどこかに実在すると主張するなら、その内容はとても神秘主義的に響いてきます。そうなると一種のファンタジーになりはてかねません。しかし、そんな神秘主義も理想の追求からの結末だとすれば、同じく理想をモデルにして思弁する理念主義哲学も程度の差に過ぎなくなってしまう恐れを感じます。

ネオプラトンでは「一者」からの流出の観念を特徴とします。すべての存在の大本である一者から世界そのものが、中身を含んで流れ出てきたという考え方です。赤ちゃんの出生と似たような考え方ですね。胎内にすべての必要なモノをもって、外に出てくると考えるわけです。

もう一つ大切な基礎がルネッサンス期までに準備されています。11世紀頃には「ヘルメス文書」が東ローマ帝国で編集されていました。この文書には哲学・宗教、占星術、錬金術、魔術といった内容を含んでいます。

社会的要因も無視できません。15世紀(1439年)以降、活字による印刷により大量印刷が可能になりました。これによってアラビアを経由してギリシア思想が流通しました。活版印刷は知識の流通に大きな役割を担ったというわけです。

人物としてはイタリアのマルシリオ・フィチーノを挙げる必要があります。彼は人文主義者、哲学者、神学者など多くの肩書きを持つ人物ですが、ヘルメス文書を翻訳したのが1463年。

そしてネオプラトニズムの担い手です。ギリシア語文献(アリストテレス全集)をラテン語に翻訳し(1469年)、人の魂は肉体に幽閉されていると考える彼の思想はグノーシス主義的です。司祭に叙階されたのが1473年で、『プラトン神学』を著したのが1474年です。

「古代神学」はキリスト教以前の賢者によって示された真理はキリスト教神学と一致すると考えました。古代神学はさまざまな思想を混淆折衷した神秘思想になりました。古代神学は現代の魔術の基礎の一つです。

そして16世紀ドイツなら魔術師ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパが有名です。人文主義者、神学者、法律家、軍人、医師でもある彼はケルン大学で法律、医学、哲学、外国語を学び、カバラの研究を始めました。それから1507年にはフランスのドール大学で聖書学を講義しました。

同時期のイタリアの黒魔術師フランソワ・プレラーティも特異な文脈で名前が見つかります。彼は性的交流の試みで悪魔を召喚できると主張したそうですが、フランスの1429年のオルレアン包囲戦でジャンヌ・ダルクとともに戦った貴族ジル・ド・レイに黒魔術を享受して、歴史に残る汚名を刻むことになりました。