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【古代・中世の魔術系譜】資料も乏しくこれらは伝説として扱われています

印刷技術や製紙技術が確立される以前に歴史を遡るのは容易なことではあません。伝説の類いが資料の中心になり、欠落の多くを想像力で補わなければならないからです。それでも、現代の人たちが過去をどのように考えているかを知るのは大切です。

次に挙げる4名はさまざまな貢献をウィッカに提供していると考えられる伝説的な人たちです。伝説を元にして、現代的想像力で復活させた古代の伝説の例と考えるのが妥当だとも思えるのですが、ともかく現代魔術の背景を彩っています。

オルフェウスは古代ギリシアの人です。自然界を支配する神を語ったとされ、神々への神学を構想するために参照されます。オルフェウス教の教祖ともされ、ウィッカにも大きな影響を与えています。

ヘルメス・トリスメギストスは、ヘレニズム時代に古代ギリシアのヘルメスとエジプト神話のトートが融合した仮設の人物です。神への祈願、勧請の儀式、特に神との合一による自己の完成を目指す儀式の神とされます。それらの儀式が魔術的だと考えられています。

ゾロアスターはアフラ・マズダーを主神とする宗教の預言者です。物事を善悪の二極で理解するなら、ゾロアスター教の影響にあるかも知れません。善悪二元論の思想を提供している最も古い宗教でしょう。

最後にシモン・マグスは、シモンはサマリヤの魔術師として新約聖書に登場します。彼はグノーシス主義の開祖ともされる人で、ゲーテ『ファウスト』の思想背景を提供しているとも考える人もいるようです。

金銭に頼って神の力を手に入れようとしたのが、悪魔との契約によって力を手に入れようとしたファウストに似ているとされます。その他にも類似点を挙げることができるようですが、断定的な話は避けておくほうが無難でしょう。

また考古学からのアプローチでは、事物に基づいた想像力が古代の状況を解説してくれるように思えます。古代魔術に関するスミソニアン博物館の案内を手がかりに、古代魔術の様子を覗いてみましょう。

2000年前の遺跡から、アラム語で記述された奇妙な巻物をセルビアの考古学者たちが発掘したと『ザ・ガーディアン』紙が2016年に伝えています。それによれば、「結合」の儀式のため、呪文と魔除けに使われたと考えられる文字と図案が多く見られたそうです。

古代エジプトでは、象徴化された図案のお守りを好みましたが、古代ギリシアやローマにおいては結合の呪文がすべてです。スポーツや仕事、練案など個人的必要のため、さらには復讐を遂げるために、ギリシアやローマの魔術師たちは結合の呪文を唱えました。結合の呪文には定型の様式があり、神々や人々を特定の行為や効果とを含んでいます。

魔術師や一般の人々によって呪文を唱えてもらって、競技大会での成績を向上したり、幸せな結婚などに用いられたはずです。アミュレットなどのお守りは必須のファッション・アイテムでした。呪文が唱えられただけではなく、ものに書き込まれました。

中東の遺跡で発見される物体のように、死ぬまで身につけていた呪文は共に埋葬されています。普通に古代ギリシアやローマの墓地遺跡の発掘によって見られるのです。つまり、携帯できるようにデザインされたお守りは必須のファッション・アイテムになったからです。

お守りは飾られていますが、巻物に書かれた呪文が本質なようです。巻物と護符の代金を魔術師に支払った人々は気持ちと願いを呪文に託したのです。

これらの発掘成果からは魔術が古代の生活の一部であったと理解できます。日常生活から分離してしまった現代と、まったく同じものとはできないかも知れませんが、呪文や象徴を用いる考え方は受け継がれているようですね。

魔術社会の歴史?魔法は一人でできたのではなく、昔からあって今もここに

魔術は邪悪だと簡単に決めつけられません。ただ特定の宗教への帰属しないことで排斥されます。あるいは特定の社会制度に帰属しないことで排斥されます。この現象は、現代のいじめであったり、お一人さまにも似た状況が見られる気がします。

19世紀というのは現代に直接接続している近代と呼べる時代です。現代ではあって当たり前のさまざまな器具が発明された、科学全盛の時代でした。そんな時代に活躍したアーサー・コナンドイルは心霊主義に傾倒していたのはあまりにも有名な話です。

彼が傾倒した心霊主義などの広い意味での神秘主義を醸し育てたのは「フリーメイソン」だろうと思います。フリーメイソンは起源が1390年にも遡るとも言われる友愛団体です。

通説としては石工組合としてフリーメイソンはさらに歴史を遡ることになります。中世ヨーロッパでの石工は高い社会的地位にありました。組合が厳格な伝承主義を採ったのは、その高い技術の漏洩を防ぐためだったと言われます。

結果的にフリーメイソンは中世の儀式系統を受け継ぐようになりました。一方でカトリックと対立する神秘主義的団体として理解されるようになっていきました。そして16世紀イギリスでさまざまな貴族や知識人が加入すると友愛団体に変貌しました。

遡って中世までたどれば、1189年にロンドンでリチャード一世の戴冠に際して、ユダヤ人たちの集団が祝祷を唱した事実が、手元の資料に見られます。どのような祝祷が用いられたのか詳細は不明ですが、彼らはそれを機会に迫害されることになったと続きます。

一般的には、中世魔術は「ピカトリクス」に遡るのが適当でしょう。カスティーリャ王アルフォンソ10世がアラビア語から翻訳させたのが1256年。さらにアラビア語とスペイン語からラテン語に翻訳されて15世紀には広く流布しました。

この時代の書物は中世の魔術を直接継承していると考えられるでしょう。この書の背景にはネオプラトニズムがあり、ヘルメス主義、占星術、錬金術、魔術などに関するアラビア語の文献が基本になっているとされます。

またこの他にいくつかの魔術書が中世起源だとされます。「ホノリウスの誓いの書」は降霊術の手引き書です。「アルス・ノトリア」はリベラルアーツの知識獲得、言語速習、記憶術などを扱っています。「精霊の職務の書」は悪霊を列挙して解説しているそうです。これらの書物がいずれもルネサンス期に表されているのは、少なくとも十字軍遠征によるアラビア文化の流入が大きく影響する歴史的現象だからです。

団体としては「薔薇十字協団」の存在が初めて語られたのは1614年でした。薔薇十字とはフリーメイソンの第18階級である「薔薇十字の騎士」を意味し、十字軍に起源を求めます。彼らが言う通り、フリーメイソンの第18階級だとするならば、フリーメイソンは薔薇十字団の母体です。クリスチャン・ローゼンクロイツが創始者とされ、錬金術や魔術などを駆使します。

そこから時間を経て、「黄金の夜明け団」は英国薔薇十字協会の会員たちが1888年に創設しました。彼らはカバラを中心に、神智学の東洋哲学、錬金術、タロット、占い、魔術書などを混合した教義を整えました。

「儀式魔術」は別名「高等魔術」です。ネオプラトニズム的にカバラを中心にした秘教であり、黄金の夜明け団によって体系化されました。儀式魔術は黄金の夜明け団によって生み出され、現代に公開されたものです。この高等魔術がウイッカなどの魔術の基礎になっているようです。

魔術の不明瞭さが周囲の不安感を刺激するのかも知れません。その意味ではどのような術であれ、社会性を持っていることになります。

イギリスの「魔女術禁止法」って実際にあった法律は、魔女術の実在を語る

少なくとも英国では、ルネッサンス期には魔女、あるいは魔術が社会問題になっていたといえそうです。社会問題になったということは、対象である魔術が一般的な概念として社会で共有されていたといえます。

一般的概念として通用している事実というのは、古い時代だけの話ではなく、現代においても同様の現象を挙げられます。いわゆる典型的アメリカ人などが類似したものでしょう。典型的というのはアメリカ人という言葉で想起する人柄・人物をさしますが、そのものである人は恐らく見当たらないはずです。

もっとも古い魔術に関する法律は1542年のヘンリー八世によるものですが、この法律で魔術を定義している魔術は、儀式や形式によらず、目的によって定義しているところが面白い。

違法に金銭や宝物を見つけ出そうとすること、無意味に消費すること、他人の身体を損なったり殺害すること、法外な恋愛のためや何らかの違法な行為のために、あるいはキリストへの侮辱のため、そして資金を不正に得るために十字架を冒涜したり誰かを呼び出すこと。

現代では意味が分からないようなことも含まれるが、具体的な行為を中心に禁止しています。ざっくり言ってしまえば、他人の安全、利益を侵害すること、あるいは宗教的冒涜といった反社会的な目的をもって、何かの行為をすることですね。

さらにエリザベス一世の時代(1563年)にも魔術に関する禁止令が出されました。この法律では魔術を行う者に対して幾分の情状が酌量されているとされます。他者に対して危害を加えたときとそうでないときとで、刑罰に軽重が設定されています。

残存する記録によれば殺人に関して、1,158人の被害者の内、20.6%は魔術によって殺害されたと考えられています。157人が魔術による殺人で告訴されており、約半数は無罪とされていますが、その中の男性はたった9人に過ぎません。

スコットランドでも1563年に魔女法が発布されました。魔術の実践や魔女との相談は斬首刑に処せられます。この魔女法は1735年に置き代えられるまで有効でした。

続いて1604年のジェームス治世時代にエリザベス法が改定発布されます。この法律によれば、邪悪な霊を呼び出したり、先祖霊と交流すると正式な手続きを経なくても死刑に処せられます。

魔術と悪魔礼拝とが混合してきたように思えますね。エリザベス法やジェームス法によって魔術は重罪になりました。結果として、魔術は教会の管理下ではなく、法律によって裁かれたのです。

1649年にはスコットランドで教会が魔女法を拡大するように要求します。他の偽りの神々を礼拝し、両親に暴力を振るうのは冒涜の罪で斬首です。こちらでは明確に他宗教に対して一方的な立場をとっているのがわかると思います。悪魔とその仲間に相談するは死罪とされました。

魔女術禁止法は一旦1735年にまとめられ、伝統的な魔術に対して罰則を定めています。多くの影響下で不可能だと考えられる犯罪を魔術の虚偽として処罰の対象にしました。神霊の力を求めた者、未来を告げ、呪文を唱える、盗まれたモノを見つけるなどが具体的な実践です。

全英に対して施行され、ジェームス法とスコットランド法にとって代わり、1951年の詐欺的霊媒法が置き換えるまで有効でした。そして最終的には、これら一連の魔女術禁止法は2008年の廃止まで存在し続けました。

ウイッカはまず他者に害を及ぼすのを禁じています。それはこのような歴史を踏まえて、魔女術から違法性を除くためだったといえるでしょう。そしてキリスト教社会からの一方的な主張によって成立してきたという事情も現代のウィッカに無縁ではありません。

信じるかはあなた次第?ウィッカの神々さまざまなところからやってきた

ウィッカは宗教的に寛容ですが、無信心ではありません。どのグループでも、ウィッカは信仰する神を特定しません。むしろ宗教に宿る霊性がウィッカの心だと言います。霊的であることで本当の魔術の深みに到達します。

そんなウィッカンたちがどのように神々とつきあい、どのような神々がいるのかを調べてみました。彼らの考えをまとめると、インド・中国や東洋的な神観と西洋の民俗神とを折衷したように思えてきます。

ただ一つ存在するのはすべての源であって、すべての源のさまざまな側面をすべての神々がそれぞれに代表しているとします。ですから存在のすべての現象とモノはすべての源の諸相です。東洋思想の混元を意味しているかのようです。

ウィッカンたちはむしろ一神教に対して反対します。それは大切なのは礼拝することだからだと言います。生活と行為とすべての意識とを神的存在に捧げるのが、ウィッカに限らず最初の実践すべきルールです。それが唯一で現実的な幸福への道です。

そのためも受肉する神的存在を関知できなければ、先に進めないでしょう。どの神であっても、その神々と人生をともにすることになります。現実世界にともに生活する神々を関知するための練習が変容的霊的実践です。

それでは、これらの神々を信じる人たちはウィッカのグループならどこでもいるはずというくらいメジャーな神々から代表的な神を紹介することで、彼らの神観を見ることにしましょう。

ヴィーナスなどの神と女神は知らない人はいないかもしれません。愛と美の女神といえばあまりにも有名な女神ヴィーナスですが、ヴィーナスはローマのアフロディーテです。彼女はもともとは園芸と豊穣に結びつけられていました。

後になって女神アフロディーテの属性を引き継ぐことになりました。彼女の神殿は多くの信者を集めた都市ラビニウムに建設され、多くの伝説に取り入れられ、戦争や幸運の神とされました。アフロディーテと同様にビィーナスも人間や人格神たちと関係を持ったとされます。

また狩りの神であるハーンを挙げましょう。イギリスに伝わる話では、彼はハンターでリチャード二世のお気に入りでした。それで周囲の妬みを買い、偽証によって訴えられて追放に処せられてしまいます。彼は怒りに突き動かされて、樫の木で頸を括ったそうです。

ハーンと同様にアルテミスもギリシアでは狩りの神です。アルテミスは狩りだけではなく出産の神です。狩人アルテミスは弓と矢立に一杯の矢を持っていますが、彼女は狩人であるとともに森とその中に生きる幼い生物たちの守護者であるのは皮肉です。彼女は貞潔の女神であり、それを軽々しく扱う者には怒りを向けるそうです。

ギリシアの神がローマに採用されて名前が変化し、イギリスの神がギリシャでも存在して、属性も変化します。神々を明確に区別してどの神が重要かを決めるのは無意味に見えます?

北欧のいたずらと混沌の神ロキも有名です。友人と上手くいかなくなったり、物事のバランスが失われたとき、ノルウェーのいたずら神ロキを探すべきです。ロキは見た目や形を好きに変え、動物の姿になったり、聖別を変化させます。彼は単に楽しみのために他人の問題に干渉したりします。

収穫時期の地母神デメテールが季節の特徴と結びつけられて記憶されています。デメテールはギリシアの、穀類と収穫の女神です。彼女の娘ペルセフォンは死の神ハデスに見初められ誘拐されます。彼女の怒りは地上の穀類をだめにしてしまい、栽培できなくなりました。

彼女は後に娘を取り戻したが、娘は冥界のザクロの種6粒を食べていました。秋分に秋が始まり、春分に再び生命活動が始まることの由来とされています。